第23回香川県看護研究学会の特別講演にて太田哲也が講師を務めました。
日時:1月28日(日)14:00〜15:00
内容:平成18年度香川県看護研究学会"看護 その未来を信じて"
主催:社団法人香川県看護協会
場所:社団法人香川県看護協会 看護研修センター
テーマ:「KEEP ON RACING〜絶望からの再生。心を治してくれたナースへ」
参加者:香川県の看護職の方、看護職をめざす学生 約450名
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看護師さんと患者さんは、長い療養生活の「点」の期間を過ごす関係です。太田さんは、当時を振り返り、こう言います。「赤ちゃんのような状態で、理性を失っていたからひどい言葉もかけたし、逆に看護師さんのなにげないひとことに傷ついてしまったこともあります」。一方の、看護師さんの気持ちは、こうです。「私たちの仕事は、患者さんが社会復帰するまでの、その一過程をサポートするという本当にやりがいのある仕事です。でも、実際に自分たちが患者さんと向き合うときは、先のことまで考えられず『点』の視点でしか見られなくなりがちです。そうすると、やりがいを見失ってつらくなり、やめてしまう人も多いんです」
看護職の仕事は厳しいものです。それを乗り越えて、続けられるのはやり甲斐が感じられるからこそ。でも、患者が社会復帰を果たしてから、治すことに一緒に向き合った濃い時間を振り返ったり、当時のことを話す機会というのは、なかなかないのだそうです。だからこそ、太田さんが療養中にどんなことを感じて、どんな言葉に傷つき、どんな態度に励まされ、いまどんな気持ちを抱いているのかを聞くこと。それが今回参加した皆さんにとっていちばんの意味のあることだったようです。
太田さんは、講演の最後にこう言いました。
「きょうは患者を代表して、僕は皆さんに感謝の気持ちを伝えにきました。体を治してくれたのは医師だけど、心を治してくれて人間に戻してくれたのはあなたたちナースでした。皆さんの仕事は本当に大変です。看護職に就いてくれて、本当にありがとう」
質問コーナーでのやりとりを紹介します。
「24時間声を聞かせようとした奥様には看護師を代表して『ありがとう』と伝えていただきたい(『太田さんの『患者を代表してありがとう』を受けて』)
Q:「私はいま学生です。面接のときに『どんな看護師になりたいのか?』と聞かれたので「あたたかい人」と答えました。そしたら、『あたたかいとはどういうものだと思いますか?』と聞かれ、わかりませんでした。太田さんは、どういう人が『あたたかい』と思いますか?」
A:「むずかしいね…。でも、言葉ではないと思う。患者さんを思う気持ちや理解する気持ちがあれば、その気持ちはきっと伝わるはず。でも、患者さんと同じ立場ではない。あなたたちはプロフェッショナルとして、状況に応じて声をかけたり、手を握ってあげたり、ということが必要だと思います」
Q:「初めてクルマに乗るとき、奥様はどういわれましたか?」
A:「乗りなさいよ、って感じでしたよ(と、ここで会場笑い)。僕にとっては、クルマに乗ることは歩くことと同じですから。こんな話があるので紹介します。僕の友人であるレーサーがケガを負い車椅子の生活をしています。その彼がカートでレース復帰を果たしました。サポートしているお母さんに『怖くないですか?』と聞いたら、こう言ったのです。『いちばん怖いのは、この子がなにもチャレンジしなくなること。チャレンジしている姿を見られることがうれしいのよ』って。生きていることは、リスクがあります。でも、リスクを怖がりすぎると、なにをやってもムダになってしまう。たとえ失敗することがあっても、無駄なこともやってみることが大事なんだと思います」
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【主催者の声】
「私は太田さんの事故をその日のニュースで観ました。立ち上がったあのシーンは脳裏に焼きついています。起き上がるまで42秒間、自分でカウントしましたが、きょうのお話で50秒も炎に包まれていたことを聞き改めて驚きました。
その方ときょうお目にかかりお話を伺って感動しています。太田さんは弱い人間だ、とおっしゃいましたが、人間というものは強くなれるんだと感じました」
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「注文していた『クラッシュ』が昨日手に入り、今朝一気に読みました。太田さんのお話と文章が一緒になってリアルに感じられました。ナースの何気ないひとことを患者さんがどう受けとめているのか、実は聞く機会があまりありません。とても貴重なお話でした」
「きょうは、私達にとって心の慰めとなるたくさんの言葉を頂きました。療養中は赤ちゃんのようだった、というエピソードが心に残りました。太田さんは、きょうも裸の気持ちを投げかけてくださった。おそらく話したくないこともいっぱいあったことでしょう。また、なにより奥様がすごいです! 強いと思ったし、家族の信頼を感じました。学生さんもきょう参加しましたが、アンケートの回収率は100%でした。若い人たちの感受性に響いたのだと思います」
「私たちが患者さんにかけた言葉や態度が、どう患者さんにうつっているのか、実は聞く機会はほとんどないものです。だからとても貴重なお話でした。太田さんは本のなかで『一度死んで生まれ変わった』ときのことを、過去の自分やプライドという殻を破るという意味で『クラッシュ』と表現されています。私たちは、人のためになる大切な仕事をしているのは分かりつつも、行き詰ることもよくあります。これをきっかけに私たちもみずみずしい気持ちを今一度取りもどしたいと思います」
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【太田哲也コメント】
「僕は療養生活で関った医師や看護師さん、リハビリの先生たちとの関係は、まるでレーシングチームのようだと感じていました。レーシングチームはドライバーだけで成り立つのではありません。タイヤマン、メカニック、監督…50人ぐらいの人間の力を結集して結果を求めるのです。振り返ると、とても濃い時間だったのだと思えます」
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